膀胱機能障害について

膀胱は下腹部にある尿をためる臓器です。男性では、前立腺という精液やホルモンに関係した臓器が膀胱の出口にあり、女性に比べて尿道が長いのが特徴です。女性では尿道が短く、膀胱の背側には膣、後方には子宮があり、膀胱や尿道、子宮などの臓器は骨盤底筋という支持組織で支えられています。

  • 膀胱と前立腺

  • 膀胱と子宮

尿は上腹部にある腎臓で作られ、尿管の中を下降して膀胱に貯まってゆきます。膀胱は複雑な中枢神経(脳や脊髄)の制御のもと、蓄尿と排尿を繰り返していますが、脳からの命令があると、膀胱が収縮し、その出口となる尿道がリラックスすることにより尿は体外に排泄されます。

  • 正常な排尿(尿をがまんしているとき)

  • 正常な排尿(尿を出すとき)

膀胱(尿道)機能障害は膀胱尿道に関わる神経などの働きの異常によりもたらされるもので、蓄尿障害(うまく尿を貯めることが出来なくなり、尿が近くなったり尿が漏れる)と、排出障害(尿をスムーズに出せなかったり、尿が出ず苦しくなる)の二つがあります。原因は、脳梗塞や脳出血から、脊髄や背骨の病気、糖尿病などの内科の病気や婦人科に関連したものなど実に様々です。老化や生活習慣病との関連も少なくありません。

代表的な病気についてご説明いたします。

過活動膀胱

尿意切迫感(ふいに尿がしたくなって我慢するのがとてもつらい症状)や頻尿(尿が近いこと)を主な症状とする病気です。

尿意を我慢できずおもらしをしてしまう切迫性尿失禁の大きな原因です。尿をためている時に膀胱が勝手に収縮してしまう異常や、膀胱の感覚に関係する神経が何らかの原因で異常に高ぶって強い尿意を繰り返し生ずることなどが原因と考えられています。

40歳以上の日本人の12.4%(800万人以上)が過活動膀胱を有するといわれています。尿失禁を伴うものと伴わないものがありますが、女性に多いものは尿失禁を伴うもので、高齢者になればなるほど、増えてゆきます。一日の排尿回数が8回以上、尿意切迫感が週1回以上あれば、過活動膀胱と診断されます。


主な治療は抗コリン剤やベータ作動薬という内服薬で、8割以上の方に効果があります。検査はほとんどの場合、必要ありませんし、過活動膀胱についての治療は進歩が著しく、重症例でもかなりの方が救済されるようになってきています。

神経因性膀胱

尿を貯めたり出したりする機能に関する、脳神経系から膀胱尿道に至るまでのあらゆる障害を言います。原因は実に多彩で、脳梗塞や脳出血など脳血管の病気、脳腫瘍、パーキンソン病や、脊髄や背骨の病気や怪我、糖尿病、婦人科や直腸の手術の後、など多岐にわたります。

原因となる病気や不具合を来している部位により、治療法が異なってきますので、専門的な知識や検査法が必要となる場合は少なくありません。症状が軽ければ、内服薬が有効ですが、排尿障害が強い場合には自己導尿という手技を指導することがあります。程度の激しい尿漏れによっては、特殊な神経刺激療法や手術をお勧めすることもあります。いずれにしても、よくお話を聞かせていただき、精密検査を行ったうえで治療に入ります。治療は長期間に及ぶこともありますし、原因となる病気によっては症状が経過とともに変化することもありますので、じっくり説明させていただきます。

間質性膀胱炎

激しい頻尿と、膀胱尿道部の痛み(特に尿がたまってくるとき)が特徴で、今のところ原因は不明です。痛みを訴えない初期の患者も含めると、潜在する患者数はかなりあると言われています。単なる治りの悪い膀胱炎として見過ごされることが多く、種々の薬剤の効果が少ないため、ときには心因性の病気とされているケースもみかけられます。専門医でないと診断は難しく、かつ、治療にも難渋します。巡りめぐって当院に来られた方も少なくありません。

  • 尿が近く、いつも下腹部が不快
  • 膀胱炎みたいなのに、尿はきれいと言われる
  • 尿を我慢すると、お腹が痛くなる

診断には排尿日誌が有用です。間質性膀胱炎が疑われたら、早めに麻酔下での膀胱鏡検査を行うことをお勧めします。内視鏡で特徴的所見が認められれば、その場ですぐ治療として水圧拡張術を行います。これは半数以上の方に有効です。膀胱訓練のほか、内服薬(抗アレルギー剤、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬など)もある程度有効で、適宜、複数の薬剤を併用します。薬剤を膀胱内に注入する治療法もあります。治療には根気が必要ですが、長い目で見ると症状が改善する方が多い印象です。病気の原因究明や治療法などでも少しづつ進歩がみられています。

膀胱尿道機能障害を疑う方がいらした場合、外来では、まず困っている症状とこれまでの経過を良く聞かせていただくことが最も大切です。診療では、簡単な診察や検尿の他、必要があればレントゲン検査や採血などを行います。大抵はその日のうちにおおよその診断がつきますが、診断の難しい場合には、専門的な膀胱機能検査を予定することもあります。


当院では膀胱尿道機能の専門学会である日本排尿機能学会の認定医が常駐しています。


担当医: 飴田 要、古野剛史