悪性腫瘍とは

泌尿器科領域の悪性腫瘍(がん)の主なものには、腎臓がん、腎盂尿管がん、膀胱癌、そして前立腺癌、精巣腫瘍があります。前立腺がんや腎盂尿管がんは高齢になるほど多くみられるものですが、腎がんや膀胱がんは比較的若い方にも見つかることがあります。一方、精巣腫瘍は20歳代から30歳代の方にみつかることが多く、若い年齢層に発生する癌の代表的なものの一つです。泌尿器科の悪性腫瘍は全体として増加傾向と考えられます。

腎臓がん

腎臓は左右のわき腹のあたりにある尿を作る臓器です。腎臓がんとは、尿を作る尿細管細胞から発生する癌で、小さいうちはあまり症状がでないために早期発見が難しいもののひとつです。ただ、最近は人間ドックや検診、内科などでの画像検査で偶然発見されることも増えてきました。診断には超音波検査やCT,MRIなどが必要です。腎臓にできる病気で腎がんと区別する必要のあるものには、腎のう胞(液体のたまった袋状のもの)や腎血管性脂肪腫という良性の腫瘍があります。どちらも治療せず経過観察のみで大丈夫なものが大半です。


腎臓がんの治療は手術が基本です。腫瘍が小さい場合は腎臓を腫瘍の部分を中心に部分的に切除します。腫瘍が大きい場合にはがんに侵されている方の腎臓全体を摘出します。転移のある症例など進行した場合は、免疫療法や抗がん剤による治療を行います。


腎臓を部分的に切除する方法は技術的に難しいもののひとつです。当院では腹腔鏡と開腹手術を組み合わせた小切開手術(ミニマム創手術)を行っております。また、腎臓の全摘出術は腹腔鏡手術で行っています。創は出来るだけ小さく、かつ、最も有効な治療となるように、それぞれの患者さんの体の状態を十分に考えて、適切な治療方法を選んでいます。


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膀胱がん

膀胱がんは大部分が膀胱の尿路上皮粘膜という部分から発生するもので、同じようなものが膀胱より上にある尿管や腎盂という部分にもできることがあります(これらは腎盂がん、尿管がんと呼ばれます)。血尿で見つかることが最も多く、膀胱炎のような頻尿や痛みで見つかることもあります。診断には膀胱の内視鏡検査が必要で、尿中のがん細胞検査やCTやMRI検査を行って、がんの拡がり、転移の有無などを診断します。


治療は膀胱鏡手術という内視鏡手術が主体です。尿道から電気メスのついた内視鏡を挿入し、腫瘍を削り取る方法で、お腹に傷はつきません。この手術は診断にも有用で、腫瘍の顔つき(悪性度)や深達度(根の深さ)が確認できます。手術の結果によっては再度の内視鏡手術や膀胱を全て摘出する大掛かりな手術が必要になる事もあります。


膀胱癌は再発を繰り返しやすいのも特徴のひとつで、再発予防目的に膀胱内に抗がん剤などを注入する治療をお勧めすることもあります。放射線治療が勧められることもあります。膀胱を全て摘出した場合は、尿を貯めておく袋がなくなりますので、代わりの尿路を作らなくてはいけません(尿路変更と言います)。尿路変更にはお腹に穴をあけてストーマをつくる方法と、腸などで膀胱の代わりとなる袋を作る方法などがあります。

腎盂・尿管がん

腎盂尿管がんは膀胱癌に比べると稀です。膀胱がんと同様、尿路上皮という部分からします。腎盂から発生したものは腎盂がん、尿管から発生したものを尿管がんといいます。膀胱がんと同時に見つかることもあります。腎盂尿管がんの疑いのある場合は、尿管鏡という麻酔下での検査を行い診断します。見つかった場合には、病気のある側の腎臓と尿管を全て摘出する手術が必要になります。

少し大掛かりな手術ですが、最近は腹腔鏡手術が主体となり、身体の負担も傷の大きさもかなり小さくなりました。


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腎盂尿管がんの治療後に膀胱がんができることもありますし、膀胱がんの治療後に腎盂尿管がんができることもあります。ともに再発や転移に注意して、気長に経過を見る必要がある病気ですし、治療によって体の負担は随分と異なります。進行したがんでは、膀胱がんも腎盂尿管がんも抗がん剤を用いた治療が必要になります。随時、病状や治療の説明をしっかりさせていただきます。

前立腺がん

前立腺は膀胱の出口にある男性特有の臓器で、精液や男性ホルモンに関係しています。

前立腺がんは年齢とともに増加し、以前より欧米人には多く見られたものです。食事や肥満、生活習慣病が原因とも言われ、今後、日本で増加が確実視されている悪性腫瘍のひとつです。多くは無症状で、PSAという腫瘍マーカーを調べることで発見される場合が大半です。中には症状が進んで、血尿や排尿障害、転移による骨の痛みなどで見つかることもあります。進行はゆっくりなものが多く、数十年の経過で成長する腫瘍もあります。


検査には前述のPSA採血、超音波やCT、MRIなどの画像診断が用いられ、前立腺に針を刺して直接組織を採取する生検によって診断を確定します。当院では一泊二日入院で下半身に麻酔をかけて前立腺生検を行っています。


治療は生検結果(細胞の悪性度)と病気の拡がり(転移の有無など)によりさまざまです。悪性度が低く、病巣が小さい場合は進行が非常にゆっくりである可能性があり、すぐ治療せず時々PSAを測定しつつ経過を見てゆくことになります(PSA監視療法といいます)。治療が必要で病気が局所にとどまっている場合は、手術治療や放射線治療(陽子線治療を含む)などがよい適応です。当院では腹腔鏡下小切開手術という方法で前立腺がんを摘出しています。

放射線治療が勧められる場合は連携する病院に紹介させていただいています。


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病気が拡がっていたり、年齢や体の状態などから手術適応ではない場合はホルモン療法(男性ホルモンに関係したお薬で、前立腺がんの増殖を抑える治療)が薦められます。ホルモン治療には注射剤と内服薬があり、患者さんの状態により使い分けてゆきます。副作用は体のほてりや発汗などが比較的多く、胃腸や肝臓の障害などにも気を付けて経過を見てゆきます。治療が難しい症例では、新たに開発された抗がん剤を用いることもあります。


前立腺癌は経過が非常に長いのが特徴です。慌てることはありませんが根気が必要です。患者さんの数は年々増加しています。近年、治療の進歩も著しい分野ですが、お薬によっては高額なものもありますので、長所短所を十分理解していただき治療をいたします。

精巣腫瘍

精巣は睾丸とも呼ばれる男性の陰嚢(いんのう)内にある卵型の臓器です。精子を作る他、男性ホルモンを分泌する役割を担っています。精巣腫瘍とは精巣にできる腫瘍(主にがん)で、若い男性に多く、進行が速い特徴があります。しかし、転移のある進行がんでも抗がん剤による治療と手術治療を組み合わせることで完全に治る可能性の高いことも特徴です。腫瘍の出来る原因は不明ですが、子供の頃、精巣が陰嚢に収まっていない状態(停留精巣)であった方や、血縁の方に同じ病気があった場合に多く発生します。


痛みを伴わない精巣の腫れやしこりで見つかることがほとんどで、超音波検査やCTなどで診断してゆきます。精巣腫瘍が疑わしい場合、血液検査にて腫瘍マーカーを調べるとともに、早めに入院していただき、診断と治療を兼ねて腫れている方の精巣を摘出します。摘出物の病理組織検査を行い、腫瘍の細かな性質を確認するとともに病気の広がり具合(肺や肝臓、骨などへの転移の有無)を調べて追加治療が必要か判断します。精巣腫瘍はいくつかの種類の腫瘍が混在することも多く、病理組織の違いにより、治療法が大きく異なってきますし、予後(病気や治療の経過の見通し)も異なってきます。


お腹(後腹膜)のリンパ節に転移が見つかった場合はその摘出が必要になることもありますし、放射線治療が勧められることもあります。また、抗がん剤による追加治療が必要になることもあります。治療には長期間を要することもありますし、再発のチェックも密に行う必要があります。抗がん剤の副作用で不妊症になることもあります。


とにかく、長い闘いになりますが、転移のない方で95%、ある方でも70%以上の方が5年間再発せずに生存するというデータがあります。比較的治る可能性の高い病気であることを忘れず、頑張ってゆきましょう。