前立腺についてみなさんに知っていただきたいこと
はじめに
もくじ
1.前立腺とは何ですか
- 前立腺は青壮年期以降の男性ホルモンの減少などが引き金となって、特に50歳以降に著しく肥大してゆきます。前立腺肥大症とは、老化とともに肥大する前立腺が原因で、前立腺の中を通っている尿道が機械的に圧迫され、尿の出が悪くなり、膀胱が敏感となり、尿が近い、すっきりしないといったいろいろな症状が生じている状態をいいます。膀胱や尿道の症状を訴えてこられる壮年期以降の男性で、他に原因となるような病気が考えられない場合、全てひっくるめて前立腺肥大症といっているのが実状です。人によって症状はさまざまですが、前立腺の大きさや前立腺による尿道の圧迫の程度も実にさまざまで、膀胱の機能異常を高率に伴いやすいことが最近わかってきています。
2.前立腺が大きいほど、症状はひどくなるのですか
- 前立腺の大きさと症状は必ずしも比例いたしませんが、前立腺が大きくなるほど尿閉(尿が出なくなる状態)のリスクが高くなることがわかっています。ただ、前立腺が巨大でも症状が軽く、尿道があまり圧迫されていない場合もあります。症状と、前立腺の大きさと、前立腺による圧迫の程度は、分けて考えなくてはならないものなのです。症状がつよく、あまり前立腺は大きくないが、検査をすると尿道がかなり圧迫されていることは少なくありません。症状の背後にある病態を詳しく知りたい場合には、膀胱や尿道の機能検査で前立腺による尿道の圧迫の程度や膀胱の機能を詳しく調べてみる必要があります。たとえば、手術の成功率などをかなり正確に推測できます。

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前立腺肥大症のCT写真です。
赤線で囲まれた部分が前立腺です。
右図の正常と比べてください。
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正常の大きさの前立腺です。
青線で囲まれた部分です。
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3.どういう人に多いのですか。予防法はありますか。
- 実は80歳以上の方のほとんどに前立腺の肥大はみられます。それほど肥大自体は多くみられるものですが、実際に症状に悩む方は5人に1人程度といわれています。症状は前立腺によるものの他に、同時に存在することの多い膀胱の異常によると考えられます。しかし、お年よりは糖尿病や心臓病をもっていることも多く、これらに伴って尿自体が多いために症状がつよくみられることもあります。
前立腺肥大の増加は日本人の食生活の変化と関連がありそうです。具体的には、肉やチーズ、脂肪の多い食事が主で、魚や野菜をあまり食べないと良くないとされています。アルコールの飲みすぎ、タバコの吸いすぎは症状を悪化させる可能性があります。トイレをがまんしすぎること、便秘、ストレス、長時間座ってお尻を圧迫する姿勢でいるのも良くありません。夜中にトイレの近い方は夕食後の飲水を控えて下さい。青壮年期に性生活が旺盛であると症状を来たしやすいという指摘もありますが、定かではありません。
4.ほおっておくとどうなるのですか
- ほおっておくと、やがて尿が出なくなり、腎臓に負担がかかって、腎不全という重篤な状態におちいることがある、と一昔前までは信じられていましたが、実際には、ほとんどの場合、心配ないということが、わかってきました。症状が気にならなければ、経過をみるだけでたいてい大丈夫です。したがって、主な治療の対象は症状に苦しんでいる方で、治療の目的はそのお困りの症状を改善させるということになります。ただ、前述のように前立腺が大きいと尿がつまる可能性が高くなりますので要注意です。また、症状が乏しい方でも、調べると残尿(排尿したあとの膀胱内の尿の残り)がとても多かったりすることもあります。特に高血圧や糖尿病などの内科的な病気のある場合、腎臓に負担がかかると腎機能が低下しやすいので、心配であれば一度、泌尿器科を受診することをお勧めします。
5.どうやって診断するのですか。
- まず、問診を行います。症状について詳しくお聞きしますが、最近では前立腺症状スコアという国際的に認められた調査用紙(質問表)があり、それを用いるドクターが増えています。次に診察をします。直腸診はお尻から前立腺をさわってみるもので、前立腺の大きさ、硬さ、しこりの有無などを調べる大事な検査です。ごく短時間ですみます。症状や前立腺の大きさなどを参考に、治療を始めることが多いですが、実際の尿の出具合を知りたい場合には尿流量測定(尿の勢いを測定する機器を備えた個室トイレで行えます)や超音波診断による残尿の測定などを予定します。のちに触れますが、前立腺癌を否定したい場合にはPSAという血中腫瘍マーカーを調べるのが良いでしょう。
6.どんなお薬がありますか。
- 前立腺肥大症の方の多くには、前立腺内の平滑筋という筋肉の過剰な緊張状態があることが、わかっています。この筋肉の過緊張状態を和らげてやるお薬(α<アルファ>ブロッカーといいます)を服用すると、尿道が拡がりやすくなり、尿の出にまつわる諸症状が改善します。90年代にこれらの薬剤の登場で治療は大きく進歩しました。ときに血圧が変動することがあるので、高血圧でお薬を内服中の方は相談すると良いでしょう。
植物エキス製剤は、効果は弱いのですが副作用が少なく使いやすい薬剤です。前立腺は男性ホルモンに依存した臓器で、特に大きい前立腺には男性ホルモン系に作用する薬も使われます。最近では、より副作用の少ない薬剤も登場しました。肥大した前立腺をゆっくり小さくするもので、治療効果をみるには数カ月から半年以上は必要です。
頻尿や尿失禁がつよい場合には、抗コリン剤という膀胱のけいれんをおさえ、尿をためやすくする薬剤を併用することもあります。ただし、尿が出ずらくなる副作用には気をつけなければなりません。
これらのお薬を必要に応じ、組み合わせて処方することもあります。基本的には症状をみながら継続して頂きますが、効果がなくお困りの場合は、手術治療を考えてみても良いでしょう。
7.どんな手術治療がありますか。
- もっとも一般的で最も確実な手術は、尿道に内視鏡をいれて肥大した前立腺組織を直接見ながら電気メスで削り取ってゆくTURPという方法です。この数十年間、いわゆるゴールドスタンダード(標準治療)として君臨しています。最近ではレーザー治療が次々と登場してきています。安全かつ比較的容易に行えるものも増えており、治療成績も確実に向上しつつあります。今後が期待されますが、今のところ、現在の治療機器で、効果においてTURPを上回るものは残念ながらありません。また、症状の改善が一過性のこともすくなくありません。現在、TURPの周辺機器や技術もかなり進歩しており、安全性は高まっています。輸血をすることはきわめて稀です。以前なら開腹手術の必要であったようなかなり大きな前立腺でもTURPで安全に治療できます。当院では9割以上の方でよい治療結果が得られており、今のところ新機器の導入には慎重な立場をとっています。(近い将来の革新的な治療にはかなり期待していますが。)
8.手術したのに良くなりません。どうしてですか。
- せっかく手術をしたのに、良くならない、という訴えで当院にこられる方は少なくありません。手術に関係したものとしては、十分に前立腺切除が成されず尿道が拡がっていない、手術したあとに一部血流が悪くなり、その部分の尿道が狭くなる、年月が経ち前立腺がふたたび肥大してくる、などが挙げられますが、きちんとした手術のあとにも十分に症状が改善しないことがあります。このような場合、実は手術前の膀胱の機能に問題があることが原因であることが非常に多いのです。具体的には、膀胱の収縮する力が非常によわい、あるいは、膀胱が非常に敏感で尿をがまんする働きが著しく妨げられている、などです。このような異常は詳しい排尿機能検査をしないとわかりません。手術後も頻尿が良くならない場合には、間質性膀胱炎という病気が少なからず潜んでいることもわかってきています。心配であれば、手術をする前に検査を行っておくと、症状の主な原因や手術の成功率などを詳しく説明することができます。
9.尿が近くなったり、出にくくなる病気は、他にどんなものがありますか。
- 神経因性膀胱という病気があります。これは尿をためたり、尿を出す機能をつかさどる神経系に問題があると生ずる病態で、脳血管障害、背骨や脊髄の病気、糖尿病など非常にたくさんの病気に伴ってくる可能性がある重要な病気です。骨盤の手術のあとに生じることもあります。前立腺肥大症と症状が似ており、また、肥大症にしばしば合併します。手術しても良くならない方の中には、神経因性膀胱が原因で尿道の括約筋という尿をがまんする筋肉の機能に異常があって、うまく排尿できない場合もあります。神経因性膀胱の診断や治療には専門的な知識や設備が必要です。
この他、尿道狭窄といって、尿道の一部が非常に狭くなっている病気もあります。子供に多いのですが、心臓の良くない高齢者や過去に尿道炎や尿道の怪我をしたことのある方などに時々見つかることがあります。狭窄は内視鏡的な治療で治る場合がほとんどです。
10.前立腺癌を合併することがありますか
- 前立腺肥大自体が進行して癌になることはありませんが、合併する可能性はあります。発生する部位は、肥大が内部であるのに対し、癌は外側寄りの部分に多い特徴がありますので、触診で前立腺にしこりを触れる場合は要注意です。採血検査で前立腺癌の腫瘍マーカー(PSAといいます)を調べると、ある程度癌の合併を予想することができます。PSAは前立腺が大きい場合や炎症を起こしている場合にも高値になることがありますが、前立腺癌を否定したいときには是非やっておきたい検査です。
癌の合併が疑われる場合、前立腺組織を針で少量採取して調べる生検をお勧めしています。排尿障害がつよい場合などには、TURPで組織をできるだけ外側近くまで切除したうえで、切除した組織内の癌細胞の有無を確認することもあります。予期せず、たまたま前立腺を切除した手術切片の中に、癌細胞が混じって見つかることもあります。いずれにせよ、癌が見つかった場合は、癌細胞の顔つきや量、その拡がりなどを参考に、追加治療を考えます。開腹による根治手術や放射線療法、あるいは男性ホルモンをおさえる治療をお勧めすることもあります。
前立腺癌は進行が遅い特徴があり、高齢の方などで場合によっては無治療で経過をみることもあります。
- 前立腺肥大に良く効くお薬が増えたことは大変良いことなのですが、泌尿器科を受診せず薬のみを処方されるケースも少なくないようです。一見、前立腺肥大症のようでも実は神経因性膀胱である場合などがありますので、なにかおかしいと思ったら泌尿器科専門医を受診することをお勧めします。また、手術を勧められてはいるものの心配で迷っている方は、詳しい排尿機能検査をうけてみると良いでしょう。そして、症状とは無関係に前立腺癌が潜んでいる可能性があることに気をつけて下さい。お尻に指を入れて前立腺を診察されることは愉快ではありませんが、大事なことなのです。
(文責:飴田 要)
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北海道泌尿器科記念病院